沖縄では、旧暦で暮らしの行事を考えることが今も多くあります。
旧暦7月には「旧盆」がありますが、旧暦8月に入っても、昔から伝わる言い伝えが続いていきます。
今回は、沖縄の旧暦8月に伝わる風習を一つずつ紹介していきたいと思います。
旧暦8月は「災いを遠ざける」行事が続く時期
沖縄の旧暦8月には、ヨーカビーやシバサシ、ハチグヮチカシチーなどの行事があります。
特にヨーカビーやシバサシは、悪霊や悪疫などを遠ざけ、家や集落を守る意味を持つ行事です。
つまり旧暦8月には、「災いを遠ざける」ことと「実りに感謝する」ことという昔の沖縄の暮らしにとって大切な願いが重なっているのです。
では、それはどんなものでしょうか。
ヨーカビー(八日日) 火の玉を見張り、厄を払う
ヨーカビーは、旧暦8月8日頃に行われる行事です。
ヨーカは「八日」のことです。
地域によって時期や呼び方には違いがありますが、旧暦8月8日から15日頃にかけて行われていたとする記録もあります。
旧盆から間もないこの時期はあたりに不吉な気が漂い、タマガイ(火の玉)や悪霊が出没すると言われていました。
沖縄県公文書館によると、戦前にはこの時期の夜になると、屋根や木の上、集落を見渡せる高い場所に登り一晩中タマガイが上がる家がないか見張ったそうです。
昔の沖縄では、タマガイが上がった家には死者が出るという言い伝えがあったからだそうです。
もしタマガイが上がった家があると、その家では厄払いに祈願を行ったり、子供たちがホーチャク(爆竹)を鳴らして災いを遠ざけようとしました。(沖縄公文書館)
今の感覚からすると少し信じがたい風習ですが、当時の人々にとっては家族や集落を災いから守るための大切な行事だったのかもしれません。
タマガイ 「人玉」とも呼ばれた火の玉
ヨーカビーと一緒に語られるのが「タマガイ」です。
わかりやすく言うと「火の玉」のことですが、沖縄の民間伝承では「人玉」ともされ、病人のいる家や近く死者の出る家の方向へ飛んでいき、落ちると不幸の前触れになると考えられていた地域があります。
イニンビー 「遺念火」と書く、もう一つの火の玉
「タマガイ」と合わせて説明しておきたいのが「イニンビー」。
これは「遺念火」と書きます。
こちらはタマガイと少し性格が違います。
イニンビーは亡くなった人の強い思いや未練が火となって現れるという伝承があり、特に男女の悲恋や夫婦にまつわる昔話と結びついているものが多く残されています。
例えば、首里の識名坂に伝わるイニンビーの話では、男女の悲劇的な死とその後に現れる二つの火の玉が結び付けられています。
また、地域によってはお盆が近づく頃にイニンビーを見ようと人が集まったという記録もあるそうです。
イニンビーは単純に「悪霊」というだけではなく、「この世に強い思いを残して亡くなった人の魂」というイメージがあり、「払う」だけでなく「慰める」べきものという側面も持ったものでした。
現代は夜でも街灯があり外は明るく遠くまで見えます。
しかし、昔の沖縄の夜は今よりずっと暗かったはずです。
そんな中で遠くにふわりと浮かぶ何かを見たら、恐ろしく感じたことでしょう。
それを「死者の魂」や「不幸の知らせ」と考え、地域で見張り、祈り、爆竹を鳴らし、家には魔除けを施す。
そこには「家族を守りたい」「災いが起こらないように」「今年も無事に暮らせるように」という今と変わらない人々の願いが込められていたのではないでしょうか。
シバサシ 家の外に「魔除け」を置く
ヨーカビーの頃になると、もう一つ大切な風習がありました。
それが「シバサシ(柴差し)」です。
旧暦8月9日から11日頃に行われるのが古い形とされ、悪霊や悪疫を払うため、桑の小枝やススキなどを束ねたものを家の軒や四隅、ヒンプンの左右などに差すのです。
家の周りに差して結界を作り、災いが家の中に入ってこないようにするというものです。
ヨーカビーが「外から災いを見張って追い払う」ものだとすれば、シバサシは「家そのものを守る結界」のような役割と言えるでしょうか。
ハチグヮチカシチー 赤い強飯で収穫に感謝
そして旧暦8月10日頃に行われるのが、「ハチグヮチカシチー(八月強飯)」です。
小豆を入れた赤い強飯を作り、仏壇などに供えます。
六月にも「六月カシチー」がありますが、ハチグヮチカシチーでは赤いカシチーを用いるのが特徴です。
旧暦8月は農作物の収穫を迎える時期でもあります。
そのためハチグヮチカシチーには、収穫への感謝や家族の健康・暮らしの安泰を願う意味が込められてきました。
「災いと遠ざけ、実りに感謝する」という旧暦8月の人々の願いが感じられます。
なぜこんなに「魔除け」の風習があるのか?
沖縄では旧暦7月にお盆を迎え、先祖を迎えて送ります。
さらに8月は収穫時期であると同時に、疫病や台風などの自然災害が多く発生する時期でもありました。
昔の人日ちが目に見えない災いや病気、死と向き合いながら、家族や集落の安全を願っていたことはこれらの風習から感じ取ることができます。
「ヨーカビー」「タマガイ」「イニンビー」「シバサシ」「ハチグヮチカシチー」。
一つ一つの言葉を知っていくと、沖縄の旧暦8月が、単なる「昔の風習」ではなく、沖縄の人々の暮らしや死生観、そして家族を思う心が詰まった季節であることが見えてきます。

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